この記事は、バンコクで年に4回発行される季刊誌FACEに連載中の「英語コーチReinaのひとりごと」のコラムVol.1(季刊誌FACE Vol.21掲載)を再構成し、より詳しく書いたものです。
このシリーズでは、日頃生徒さんからよく頂く質問やお悩みについて私が思うことをお伝えしていきます。英語学習やお子様の英語教育には、様々な方法や考え方があり、答えは決して一つではありません。私の「ひとりごと」として、皆様が「これから」を考える上でのヒントの一つとして、読んで頂けると嬉しいです。
今回のテーマは、こちら。
インターナショナルスクールの先生から、家でも子供と英語で話すように言われました。英語の方が良いのでしょうか?
以下の項目に当てはまる方は、ぜひこの記事をご一読下さい。
- 子供の学校の先生から、家でも英語を話すように言われた。
- インターに入ったばかりの子供の英語力を伸ばしたい。
- 子供の英語力が伸びない。
- インターに通っている子供の日本語レベルが最近心配。
- 子供が誰に対しても日本語と英語を混ぜて話している。
- 小学生で英検準2級〜準1級合格を目指している。
学校の先生が「家でも子供と英語で話せ」と言う理由
そもそも、インター校の先生はなぜ「家でも子供と英語で話して下さい」と言うのでしょうか?
日本や日本人学校から転入して、急に環境が変わるわけですから、いきなり英語を流暢に話せないのは当たり前です。そして、学校の先生もいきなり流暢に話せるようになることを求めているわけではありません。
多くのインター校は、英語を第二言語や外国語として学習する生徒のためのクラスやプログラムを用意しており、初めのうちは、同じように英語を学習中のお子さんと一緒にESLの授業を受けることになる場合が多いです。「家でも英語を話してほしい」と言われる場合、そのESLのクラスについて行くのも難しい段階の可能性が高いかもしれません。
英語が全く分からない状態のまま、ただ学校の授業に参加しても、授業の内容が分からないまま学校で時を過ごすことになってしまいます。その状態で学校以外で何もしなければ、英語力は変わらず、学力も上がりません。
それを避けるために、何とか英語力を向上させて、周りのレベルに追いついてほしいということが、学校の先生の願いかと思います。そのためには、やはり英語に触れる機会と英語学習の時間を圧倒的に増やす必要があります。その一環として、家でも英語を話すようにアドバイスされることがあるようです。
しかし、私は「家では母国語(日本語)推奨派」です。本記事では、家で英語を話すことと日本語を話すことそれぞれのメリットとデメリットを整理した上で、私が皆さんのお子さんの母国語の確立を徹底してほしい理由をお話しします。
家で英語を話すこと・日本語を話すことのメリットとデメリット
「家でも英語」のメリット
①英語に触れる機会が増える
まず、日常で一番長い時間を過ごす家の中で日常会話を英語にするのであれば、当然お子さんが英語に触れる機会が大きく増えるでしょう。英語に触れる機会を増やすことは、英語力向上に必須ですから、この点はメリットと言えます。お父さんやお母さんとも英語で会話することにより、英語が上達する可能性ももちろんあります。
ただ、これはご両親の英語力が高い場合に限ります。ご自身が英語力に自信がない場合は、お子さんに間違ったインプットをさせてしまわないように気を付けたいですね。詳しくは、以下の「デメリット」に記載します。
②レベルを把握して家族で一緒に頑張れる
日常会話を英語でする場合、お子さんがどのような単語や表現を知っていて、どのレベルだとまだ分からないのか、というお子さんの英語力のレベルを肌で感じて把握することができます。先生に任せきりではなく、ご家族で把握しておくことで、今は何が足りなくて何を伸ばすべきかの見当がつき、その時期に最適な学習をさせてあげることができるかもしれません。
また、お子さんの英語力向上にご家族で力を合わせることにより、お子さんも心強く感じてくれるかもしれませんね。
「家でも英語」のデメリット
メリットがあるから、学校の先生から提案されるわけですが、私が考えるデメリットもシェアさせて頂ければと思います。
①間違った英語を覚えてしまう可能性がある
先ほど、「メリット」として、ご両親の英語力が高い場合は、家で英語を話すことが効果的であると書きました。ここで言う英語力は、試験の点数やお仕事・生活で通用しているかどうかではなく、「文法」や「発音」を含めた英語力です。特に、英語を学習し始めた段階で聞く「音」や「文法」は、英語の「お手本」となるものなので、「間違った」英語をインプットさせてしまいそうな場合は、注意が必要です。
例えば、日本語的な発音で英単語を覚えた場合、その発音が正しいと勘違いしてしまうと、後に修正しなければなりません。また、学校で聞く発音と家で聞く発音が異なる場合、お子さんは混乱してしまいます。アメリカ・イギリス・オーストラリア等のいわゆるネイティブの発音の違いであれば問題ないですが、日本語発音は避けてあげてほしいです。発音に限らず、文法も学校で「違う」と教わったものを家でご両親が使われていた場合、お子さんは混乱してしまいますよね。
英語を「教えて」あげるのは大賛成なので、学校で分からないことや宿題があればぜひ教えてあげてほしいですが、説明は日本語でしてあげる方が良いかと思います。
②心が休まる場所が無くなる
もしも、ある日突然ご自身の生活環境が全て英語に変わったら…。と、想像してみて下さい。今まで、学校の先生とも友達とも日本語で楽しく不自由なく話していたのに、ある日を境にそれが無くなり、全て慣れない英語になるのです。そして、日本語を話すレベルで英語を話せるわけではないので、友達を作るのもできた友達と話すのも今までとは勝手が違います。少なくとも初めのうちは、すごく気が張った学校生活になるのです。
そんな中、家でも英語を強要されて、言いたいことも英語力が足りないばかりに言えなくなってしまったら、お子さんの心理的・精神的ストレスが更に高まってしまいます。学校での環境の変化で、ただでさえストレスを感じている中ですので、お家は心休まる場所にしてあげてほしいです。
「家では日本語」のメリット
次に、家では母国語である日本語を話すことのメリットを見ていきます。
①ネイティブレベルの母国語を確立できる
インターナショナルスクールに通い、学校で英語を日常的に使う生活をするとなると、自然な日本語に触れるのは家や塾、習い事の教室のみになります。その環境の中で、お子さんに自然なネイティブレベルの母国語(日本語)を身に付けてもらうためには、やはり家ではご両親のネイティブな日本語が必須となります。
その貴重な母国語の訓練の環境を中途半端な英語に変えてしまうと、上記の間違った英語を覚える危険性に加えて、母国語の日本語も危うくなってしまう可能性があります。お子さんが「私の母国語は日本語」と自信を持って言えるように、ぜひ母国語は確立しておいて頂くと良いかと思います。
②言語の使い分けができるようになる
バイリンガルやトリリンガルに育てたい場合、それぞれの言語を混同してしまわないように環境を整えてあげるのがおすすめです。この人と話す時は英語、この人と話す時は日本語、この人と話す時はタイ語等、分けて使う癖を付けておくと、ミックスして使ってしまうのを避けることができます。
英語も日本語も通じる人と混ぜて話す癖が付いてしまうと、どちらか1つしか通じない人と話す時にももう1つの言語が混ざって出てきてしまう可能性があります。そうすると、例えば「A」という事柄を伝えたい時にはいつも英語を使っていると、同じ「A」という事柄を日本語で伝えないといけない場面で困るのです。
ですので、どの言語でも言いたいことを言えるようにしておくと、とても強みになると考えています。ちなみに、私の場合は幼少期は両親と話す時や幼稚園では日本語、家のタイ人のお手伝いさんやご近所さん達とはタイ語で話していました。英語は、初めから話せたわけではなく、高校に入ってからインターナショナルスクールに編入してから話すようになりましたが、幼稚園でのネイティブの先生の週1回の授業や、母の友人の英語のプレイグループ等、正しい「音」を幼少期から聞くことができていたことが、後の英語学習にプラスに働いたのではないかと考えています。
③心が休まる場所・本音を言える場所になる
インターナショナルスクールに編入するということは、先生やクラスメイトが言っていることが理解できず、教科書を見てもこれまで使って来なかった英語で全てが記載されているという環境に放り込まれるということです。大人でも相当なストレスを感じる状況ではないでしょうか?それを、小学生〜高校生のお子さんが経験するのですから、大人以上のストレスを感じてしまう場合もあります。
そんな中、家でも英語を強要してしまうと、1日中ずっとストレスを抱えた状態になってしまいます。心理的にも精神的にも負担がかかり過ぎては、学習もなかなか捗りません。ぜひお子さんに寄り添って心のケアもしてあげてほしいです。その時はやはり、英語ではなく母国語である日本語の方が心が落ち着き、思っている事を溜め込まずに自由に表現しやすいはずです。お子さんの英語学習を応援し、味方になってあげて頂くとお子さんも頑張れるかもしれませんね。
「家では日本語」のデメリット
「家では日本語」という意味を、学校以外は全て日本語という意味では捉えないで下さいね。学校以外では全て日本語にしか触れない場合、それはやはり圧倒的に英語に触れる時間が少ないです。日常会話は日本語をしても、「英語学習」の時間は削らないで下さいね。「英語学習」の時間を取らずに本当に日本語しか使わない生活を送ると、英語力の伸びは本当にゆっくりになりますので、ご注意下さい。
つまり、英語学習を「学校に任せっぱなし」では良くないという事です。学校や学年、クラスによって、宿題の量は様々ですが、お子さんが授業を理解することや宿題をすることに苦労をしているようでしたら、目を逸らさずに向き合ってあげて下さい。日常会話を英語に変えるのではなく、宿題のやり方を教えてあげながら英語学習をサポートしてあげるのは、特に最初は不可欠ですので、放課後の時間もご両親や塾、家庭教師の先生で分担して英語学習のサポート体制を作ってあげると良いでしょう。
両親のどちらかが英語(または他の外国語)ネイティブの場合
上記で挙げてきた家での英語・日本語使用のメリットとデメリットは、ご両親共に日本人で母国語が日本語の場合を想定しています。もしも、国際結婚をされていて、ご両親のどちらかが英語のネイティブスピーカーであれば、お母さんとお父さんと話す時の言語を使い分けるのがおすすめです。
例えば、お母さんが日本語ネイティブ、お父さんが英語ネイティブの場合、お母さんと話す時は日本語、お父さんと話す時は英語、というように決めておくと、頭の中での言語のスイッチが入れ替わり、混ざらずに両方の言語をネイティブレベルで習得できるかと思います。もちろん、話す量によっては、ご両親との会話とは別に語学力向上のための学習が必要な場合もありますが、複数の言語をネイティブレベルで操ることができるのは、お子さんの強みになりますので、素晴らしい環境を活かしぜひ小さなうちから工夫して身に付けさせてあげて下さいね。
さて、前編では主に家で話す言語それぞれのメリットとデメリットをお伝えしました。後編では、私が家では母国語でのコミュニケーションをおすすめする理由を更に詳しくお伝えしていきます。ぜひ合わせてご一読下さい。